Ptosis
眼瞼下垂とは
眼瞼下垂ってどんな病気?
眼瞼下垂は、上まぶたが黒目を覆い、十分に開けられなくなる症状です。主な原因は、まぶたを持ち上げる筋肉(眼瞼挙筋やミュラー筋)の機能低下で、先天性や加齢、筋力低下などが関係しています。この症状により、患者さんは日常生活に支障をきたしたり、眼や体調の不良を感じるようになります。まず、視野が狭くなり、特に上方の見えにくさが顕著になります。そのため、無意識に顎を上げて視界を確保しようとする傾向があります。また、目を開こうと努力するため、額にしわが増えたり、眉間のしわが深くなったりします。外見的な変化も見られ、年齢より老けて見えたり、常に眠そうな印象を与えることがあります。さらに、まぶたを上げるのに余分な力が必要なため、眼精疲労、頭痛、肩こりなどの二次的な症状も引き起こす可能性があります。重症の場合、瞳孔領域までまぶたが覆うと視力にも影響を及ぼします。これらの症状は、患者さんの生活の質を著しく低下させる可能性があるため、適切な診断と治療が必要です。
正常な場合
黒目がほぼ見えている状態、または1ミリ程度隠れている状態です。
軽度の眼瞼下垂
上まぶたが瞳孔より上にあるものの、黒目上の3分の1くらいが隠れて見えていない状態です。
重症の眼瞼下垂
瞳孔の半分以上が上まぶたで覆われ、黒目中心からまぶたの縁までの距離が2ミリ未満の状態です。
眼瞼下垂の原因とは
先天性眼瞼下垂
生まれつき上眼瞼挙筋の発達異常や関連する神経の異常が原因
後天性眼瞼下垂
加齢、長期的なコンタクトレンズの使用、白内障など
眼瞼下垂は、まぶたが十分に開かない症状で、先天性と後天性の2つに大別されます。先天性眼瞼下垂は、生まれつき上眼瞼挙筋の発達異常や関連する神経の異常が原因で発症します。これは弱視や斜視の原因となることもあります。一方、後天性眼瞼下垂は、様々な要因で発症します。最も一般的な原因は加齢による上眼瞼挙筋の腱膜の弛緩です。また、長期的なコンタクトレンズ使用による機械的刺激、白内障や緑内障の手術後、重症筋無力症などの筋肉異常、動眼神経麻痺などの神経異常、外傷なども原因となり得ます。さらに、まぶたの皮膚のたるみによる「偽眼瞼下垂」も存在します。これは眼瞼挙筋や神経には問題がない状態です。眼瞼下垂の正確な診断と適切な治療のためには、その原因を特定することが重要です。原因によっては、単なる美容上の問題だけでなく、重大な疾患の症状である可能性もあるため、専門医による詳細な検査と診断が必要です。
眼瞼下垂の種類
先天性の眼瞼下垂
生まれつきの眼瞼下垂。早期の専門医受診が大切。
先天性眼瞼下垂は、生まれつき上まぶたを持ち上げる筋肉(上眼瞼挙筋)の発達異常や、それを支配する神経の問題により発症します。主な特徴として、目を大きく開けることが困難な状態が挙げられます。この症状は約80%が片側性(片眼性)で発症しますが、両側性(両眼性)の場合もあります。診断は、力を抜いて正面を向いたときに、まぶたが瞳孔(黒目の中心)の上まで上がらない状態を確認することで行われます。先天性眼瞼下垂は視力の発達に影響を与える可能性があり、稀に斜視や弱視を伴うことがあります。斜視は片方の目が正しい方向を向いていない状態、弱視は視覚情報の伝達に支障があり、眼鏡やコンタクトレンズでも十分な視力が得られない状態を指します。症状が重くなるほど弱視のリスクが高まるため、常にまぶたが瞳孔を覆っている場合は視力障害の可能性があります。そのため、早期の専門医受診が推奨されます。適切な診断と治療により、視力の発達や日常生活への影響を最小限に抑えることが可能です。
後天性の眼瞼下垂
加齢やその他の原因で発症する眼瞼下垂。
後天性眼瞼下垂は、元々正常だったまぶたが徐々に、または突然下がる状態を指します。主な原因は加齢による筋力低下や皮膚の弛緩、まぶたの腱膜の伸びや緩みです。多くの場合、両眼に発症する傾向があります。代表的なタイプには、腱膜性眼瞼下垂、動眼神経麻痺、重症筋無力症があります。腱膜性眼瞼下垂は腱膜の弱化が原因で両眼に起こりやすく、動眼神経麻痺は神経の問題で片眼に多く、重症筋無力症は神経筋接合部の異常で症状が変動する特徴があります。その他の原因として、ハードコンタクトレンズの長期使用、外傷、眼の手術の合併症、アトピー、花粉症なども挙げられます。特に、ハードコンタクトレンズ使用者や白内障・緑内障手術経験者は発症リスクがあります。症状としては、目の開けにくさや疲れ、視野の狭さだけでなく、頭痛、肩こり、慢性疲労、不眠など多様な不定愁訴が含まれることがあります。適切な診断と治療のために、症状に気づいたら早めに専門医の診察を受けることが推奨されます。
若い人の眼瞼下垂
近年増えている若い人の眼瞼下垂は放置厳禁。
眼瞼下垂は従来、加齢による中高年の症状として知られていましたが、近年では若年層にも発症例が増加しています。若者の眼瞼下垂は、先天性と後天性の二つに大別されます。先天性眼瞼下垂は、まぶたを開く筋肉の欠損や神経反射の異常が原因で、多くは片目に症状が現れます。早期発見・治療が視力発達に重要です。一方、後天性眼瞼下垂は現代の生活習慣と密接に関連しています。主な原因として、不適切なコンタクトレンズ使用による目周辺筋肉の衰弱、アレルギーによる頻繁な目こすり、過度のアイメイク(アイプチやつけまつげの多用)などが挙げられます。小中高生に見られる眼瞼下垂は先天性の可能性が高いですが、目の酷使や強い刺激による後天性発症のリスクもあります。眼瞼下垂は自然回復が難しく、放置するとさまざまな影響を及ぼす可能性があるため、早期の専門医による診断と適切な治療が重要です。
眼瞼下垂のセルフチェック
これらのセルフチェックで異常が見られ、更に眼の不調や原因不明の頭痛などの自覚症状がある場合は、専門医の診察をお勧めします。
01
鏡の前で顔を正面に向け、目を軽く閉じる
02
眉毛の上を指で軽く押さえる
03
その状態で目を開ける
04
おでこに力が入る、または目が開きにくい場合は要注意
眼瞼下垂の治療
拳筋前転法
この手術のメリットは、必要に応じて余分な脂肪組織や皮膚を除去し、まぶたの形態を調整することが可能な点です。保険適用での手術の際はなるべく御本人の意向に沿うように手術を行っておりますが、特に仕上がりにこだわりがある方は自費での手術となります。
手術の副作用としては、一時的な出血、腫れ、内出血などがありますが、これらは徐々に改善していきます。頻度は少ないですが、低矯正、再発なども起こり得ます。保険適用での手術は手術ごとに費用がかかります。
手術内容
眼瞼下垂症の主要な治療法の一つです。この手術では、二重ラインに沿って皮膚を切開し、緩んだ挙筋腱膜を瞼板から切り離した後、適切な位置で再固定します。
これにより、まぶたを持ち上げる筋肉の動きをまぶたに伝え、上まぶたが動くようになります。眼の開きが改善し、視野が広がります。
施術の副作用(リスク)
術後は1〜2週間程度の強い腫れが生じますが、2〜3ヶ月で自然な状態に落ち着きます。ただし、回復期間には個人差があります。
費用
保険適用の場合、両側で約50,000円(3割負担時)となりますが、美容目的の場合は自費診療となり、440,000円程度かかることがあります。
患者の状態や希望に応じて、切らない手術法など他の選択肢もあります。
拳筋短縮法
挙筋短縮法(経皮法)は、重度の眼瞼下垂に対応可能な手術法です。この手術では、二重のラインに沿って2〜3cm切開し、眼瞼挙筋を一部切除して全体を縮めます。同時に、眼瞼下垂の程度に応じて余剰皮膚も切除するため、上まぶたのたるみも改善できます。リスクとしては、傷跡が残ること、瞼が閉じにくくなる可能性、ドライアイになりやすいことなどが挙げられます。
手術内容
切開式二重まぶた手術と同時に挙筋腱膜短縮術を行い、目の開きをはっきりさせます。これにより、眼瞼下垂や重そうな二重まぶた、暗い印象の目つきなどを改善できます。
施術の副作用(リスク)
術後は、1〜2週間程度で大まかな腫れと内出血が引きますが、完全な仕上がりまでには最低3ヶ月程度必要です。腫れている間は、目の開きや二重幅の左右差を強く感じる場合があります。また、傷の赤みが完全に消えるまでには約6ヶ月かかります。
費用
両側で約660,000円ですが、保険適用の場合は約50,000円(3割負担時)となります。
切開式重瞼形成法
切開式重瞼形成法は、もともと一重の方や、眼瞼下垂や加齢による上まぶたのたるみを改善したい方に適した手術法です。この手術では、希望する二重ラインに沿って皮膚を切開し、眼瞼挙筋(目を開ける筋肉)を短縮させることで、目の開きを改善します。同時に、余剰皮膚や脂肪を除去し、自然な二重ラインを形成します。
手術内容
余剰皮膚の量、眉毛の位置、挙筋機能などを考慮して慎重に判断されます。くぼみ気味のまぶたや、加齢により二重ラインが狭くなった方に特に適しています。
施術の副作用(リスク)
腫れ、内出血、感染、傷跡、色素沈着などがありますが、多くの場合は一時的なものです。
費用
44万円(2024年現在)
筋膜移植法
前頭筋吊り上げ術は、通常の眼瞼下垂手術では改善が難しい重度の症例、特に先天性眼瞼下垂に対して行われる高度な手術法です。この手術では、側頭筋や大腿から筋膜を採取し、それを使って瞼板と前頭筋(眉毛を上げる筋肉)を接続します。当院では、筋膜採取は行わず、人工物(サスペンダー)を使用しますので、他の部分を切らなくて良い利点があります。この手術の特徴として、目が開きやすくなる一方で、閉じにくくなる可能性があります。また、目を閉じた時の左右差が生じることもあります。そのため、手術の適応は慎重に判断され、通常は他の治療法で改善が見込めない場合に選択されます。
手術内容
まず糸によるシュミレーションを行います。その仕上がりに満足であれば、その後、上まぶたと眉毛上部に切開を入れ、皮下、眼輪筋下にトンネルを作成し、サスペンダーを挿入し良い開き具合のところで瞼板と前頭筋に固定します。これにより、前頭筋の働きを利用してまぶたを開けることが可能になります。
施術の副作用(リスク)
術後は2〜3週間程度の腫れと内出血が生じます。痛みは数日間続きますが、徐々に改善していきます。傷跡は目立たなくなりますが、完全な回復には2〜3ヶ月かかります。
費用
片眼につき55000円程度(3割負担の場合)
眼瞼下垂手術の流れ
診断
01
まずは眼瞼下垂の種類や程度などを診断します。
デザイン
03
まぶたのデザインと切除範囲を決定し、シミュレーションを行います。これにより、期待される手術効果と術後の見た目(二重ラインの形状)を事前に確認できます。更に術中仮縫合を行って、術後の改善イメージを確認していただきます。鏡で確認しながら、もう少しあげたい、下げたいなどの患者様の希望を反映し、最適な結果を得るための重要なステップです。
眼瞼下垂手術
05
当院では術中に顔の確認を行っていただくこともあり、殆どの症例は局所麻酔下で行っています。麻酔の注射は少々の痛みがありますが、術中、術後の痛みは最小限です。消毒後、清潔な布で顔や身体を覆った後は、目を閉じた状態で手術を行います。腱膜や眉下の皮膚の仮縫合後、医師と患者で開き具合を確認し、縫合します。縫合は必要に応じて真皮縫合を行い、皮膚の縫合は髪の毛ほどの細い糸を用いて丁寧に縫合します。手術は両眼の場合、40~50分程度で終了し、その後圧迫眼帯を装着します。翌日の診察で眼帯を外し、傷口の状態を確認します。
ご帰宅
07
眼瞼下垂手術後、院内でのクーリング処置と安全確認後にご帰宅いただきます。当日の自身での運転は禁止です。24時間は激しい運動や飲酒は避けてください。入浴は翌日から、化粧は抜糸後から可能です。1週間後に抜糸を行い、その後も定期的な受診が必要です。回復中の不安は担当医に相談してください。
手術のご予約
02
手術を受けることが確定しましたら、患者様のご都合と医療チームのスケジュールを調整し、最適な手術日を決定いたします。通常、手術日は決定後約1ヶ月先になることが多く、この期間で十分な準備を整えていただきます。
局所麻酔
04
患者様の快適性を最優先に、局所麻酔時の痛みを極力抑えるため、麻酔テープを事前に貼ってきていただき、更に痛みを紛らわせるブルブルペンという器具を用いて行います。針は皮膚麻酔に使用できる最も細い針や痛みを抑えた特殊な配合の麻酔薬を使用しています。必要な場合は気分を落ち着かせる内服や注射もご用意しておりますので、不安な方はお申し出下さい。これらの工夫により手術中の不快感を最小限に抑えます。患者様の安心と満足を第一に考えた治療を心がけています。
安静と冷やし
06
眼瞼下垂手術後の回復には、適切な休養と冷却処置が欠かせません。手術後当日は、腫れを最小限にするためなるべく創部を保冷剤などで冷やしていただき、頭を高く保っていただくことをおすすめします。術翌日、眼帯を外した後も冷却を行います。家事、お仕事などは、できる範囲で行って下さい。術後2日間は飲酒、激しい運動、湯船やサウナに入るなどは控えていただきます。3日後からは運動なども普段通りに行っていただいて大丈夫です。
眼瞼下垂手術よくある質問
眼瞼下垂手術は当日中に帰宅できる日帰り形式で受けることは可能でしょうか?
当院では、回復室で看護師が術後の安全を確認してからご帰宅いただく短期滞在手術という日帰り入院(短期滞在施設)の形式で行っております。術後は20~30分程度、院内で休んでいただいてからご帰宅できます。
眼瞼下垂の手術を受ける際、患部の痛み具合はどうなりますか?
また、使用される局所麻酔の投与方法や効果について詳しく教えてください。
眼瞼下垂手術後は若干の痛みを感じることがありますが、多くの患者さんにとって耐えられない程ではありません。術後は痛み止めの内服薬を処方しますが、服用しない方も少なくありません。ただし、麻酔注射時には一時的な痛みがあります。この際の不快感については、あらかじめご了承ください。また、痛みの感じ方には個人差があります。
局所麻酔で使用する薬剤はキシロカインという薬剤で、歯医者さんなどでも一般的に使用される成分です。当院では更にエピネフリンを添加しており、術中の出血をコントロールしております。キシロカインアレルギーがある方には別の麻酔薬をご用意しております。1時間程度の手術であれば大抵の方は追加投与は必要ありませんが、術中に痛みが生じた場合、追加投与を行います。
眼瞼下垂手術後の運動再開はいつから可能ですか?
眼瞼下垂手術後の車の運転は、術直後から理論上可能ですが、腫れによる視界の狭窄が解消するまでは避けることをお勧めします。運動に関しては、術後2~3日間は控えめにすることが望ましく、過度な運動は腫れの悪化や回復の遅延を招く可能性があります。特別指示がなければ3️日目以降は通常通り運動を再開可能です。
眼瞼下垂手術後のメイクと洗顔はいつからして大丈夫ですか?
眼瞼下垂手術後のメイクと洗顔の再開時期は部位によって異なります。まぶた以外の部分は手術翌日から、まぶたは抜糸(通常1週間後)の翌日からメイクが可能です。
ただし、アイメイクは術後2週間程度待つことをお勧めします。
洗顔は手術翌日から可能ですが、傷口をこすらないよう注意し、シャワーで優しく洗い流す程度にとどめてください。
お風呂や洗髪も翌日から可能ですが、同様に傷口への刺激を避けることが大切です。
眼瞼下垂手術後の腫れと回復期間はどれくらいですか?
眼瞼下垂手術後の腫れは個人差がありますが、一般的な経過は以下の通りです。
術後1週間は強い腫れが続き、血腫は2週間程度でほぼ見えなくなる程度まで軽減します。
1ヶ月で90%回復し、メイクで目立たなくなりますが、完全な回復には約3ヶ月~6ヶ月かかります。
人と会える程度まで回復するのは平均1週間程度です。
日常生活への影響は軽微ですが、他人の目を気にする場合はさらに時間が必要です。
あくまでも一般的な目安であり、個々の体質によって期間は異なります。また経過は術式によっても影響されます。
眼瞼下垂手術後のコンタクトレンズ使用再開はいつから可能ですか?
眼瞼下垂手術後のコンタクトレンズ使用再開時期は、手術方法や個人の回復状況により異なります。
一般的には、翌日から使用可能ですが、まぶたに傷がある場合は、むやみに触ることはおすすめしません。また、まぶたに軟膏を塗るため、コンタクトに軟膏がついて曇る可能性があります。
また術後は老眼や乱視が変化し、見え方が変わってコンタクトレンズが合わないと感じることがあります。
担当医の指示に従い、個々の回復状況に応じて判断することが重要です。